異才発掘プロジェクトROCKETは、2014年に始まった先端研と日本財団の共同プロジェクトです。一体どんなプロジェクトなのか、私たちにも取り入れることはできないか考察していきたいと思います。
異才発掘プロジェクトROCKET
子供の特性が生かされることを目指し、東京大学先端科学技術研究センター(先端研)の中邑賢龍教授が6年前にはじめました。
参加している子供たちの約3分の1は学校には行っていません。
また、参加者は学校も家も困っているような「扱いにくい子」だけを選りすぐっています。
集団より もともと一人で生きたほうがいいという子どもたち。
だが、その子たちも孤独感は持っている。
理解されない、という孤独感。
だから、その人たちなりのやり方を理解して、信頼できる人を何人かつくる。
そのためにつくったのが、このROCKETプロジェクトだそうです。
世間の間尺に合わなくても、排除されたり追い込まれたりして自信喪失させられることなく、
こだわりを生かし好きを伸ばして生きていけるようにする空間を提供し、
その結果として、ユニークな人材が育つ社会的素地が生まれること(地域コミュニティの復活)を目指しているそうです。
ROCKETは
Room
Of
Children
with
Kokorozashi
and
Extraordinary
Talentの略。
「志と異才ある子どもたちのルーム」という意味があるそうです。
ルームには、自分たちの部屋、仲間のいる居場所、生きづらさから逃れる避難所、自分が光り輝くスペース…いろんな意味があります。
公式HPより
ここで選抜された子ども達が異才であると我々が評価しているわけでもありませんし、彼らを万能な天才に育てるプロジェクトでもありません。 また、いまの学校教育を否定し対抗するプロジェクトでもありません。
残念ながら、ユニークさ故にそこに馴染めない子ども達が学校にいなければならない事で不適応を起こす現状に疑問を感じています。
彼らには彼らの新しい学びの場所と自由な学びのスタイルが必要です。
それは決していまの学校教育システムと矛盾するものではありません。むしろ両輪(両者が補い合って十分なはたらきをする)であるべきだと考えています。
中邑教授の言葉をピックアップ
◆人と違ってもいい。「俺は俺」で堂々と生きるという変わった子供たち、ユニークな子供たちが、つぶされず育つ世の中を作れば、20年後、30年後面白い社会がくると思ってやってるだけのことなんですよ。
気の長い話ですよね。本当かどうかもわからない話。
だけど必ずそうなる。なぜかといえば、人間はやりたい方向に伸びていくのが一番力を発揮できるからです。
◆イノベーションを生むのは、こういう空気を読まない人たちだ。
ふつうの人たちは空気を読むから、変なことは言わないし、やらない。
間違いなく、この子たちの中から変わった大人が生まれてくるんだと思う。
そういう面白さを抱えた子どもたちをつぶしてはいけない。
◆うちの研究室では、貧困とかホームレスとか生活保護とか、そういう人たちをアルバイトで雇っているが、その人たちの中には相当考えが面白い人たちがいる。
それを社会が生かし切れてこなかったのだと思う。
◆現代に多いサービス産業では、コミュニケーション能力と読み書き計算能力が強く求められる。
それができないと、どうしようもないという絶望に追い込まれる。
◆いろんな認知特性、身体特性をもつ人たちは、昔からいた。
ぶあいそで、ぶきっちょだけど、ふすまを張らせたら完璧とか。
そういう人たちの中には、今で言うアスペルガーの人たちもいただろうが、それでも食っていくことができた。
今はそれがむしろ難しくなった。
◆私たちのプロジェクトは、その子たちがそのままで、生きていけるスペースを社会の中に作ろうとする試みだ。
◆私たちがやっていること、目指していることは、別に変わったことじゃない。
「ふつう」のことだ。
でもそれこそが、いま難しくなってしまっている。
それにたっぷりと、継続してつきあえる大人がいない。
その大人たちの余裕のなさが、子どもたちを追いつめている。
子どもたちの「問題」なんじゃない。
また、中邑教授は書字障害や病気などをかかえたの子どもたちに対してのプロジェクト、DO-IT Japanを立ち上げています。そちらも紹介したいと思います。
(図解 よくわかる大人のADHDによると、LDの30-50%がADHD、ADHDの30-50%がLDとも言われています)
DO-IT Japan
DO-IT Japanは、テクノロジー活用を主として、
- 自らのニーズに適した方法で学ぶこと
- 初等教育から中等教育や高等教育へ進学すること
- 希望するキャリアにつながる力を育てること
に関連する様々なプログラムの提供を2007年から継続的に実施しています。
米国では、ワシントン大学がDO-ITプログラムを1993年より毎年実施しており、多くの卒業生が大学に進学しています。
米国ではLDなど障害のある大学生が約200万人在籍し(全学生の11%)障害を持つ学生に対し、合理的な配慮を行っています。
中邑教授の言葉をピックアップ
◆書字困難を抱えていても、ワープロ利用を認められれば、力を発揮できる子どもたちがいる。
◆知的レベルは高いのだが、書けない、書く速度が遅い。
自分の思考速度やイメージに、実際に書く速度が追い付いていない。
そうすると、理解しているのに、テストの出来は悪い。
結果として、暴れるか、ひきこもるか。
精神疾患を引き起こしてしまう子もいる。二次障害だ。
負のスパイラル。
私たちは、これを防ぐためにやっている。
◆私たちはモノ(テクノロジー)とカネで、負のスパイラルを防ぐ。
テクノロジーを活用した学びの保障を行う。
子どもたちが、自分の特性を理解し、特性にあった機器を使いこなし、その利用を学校などに認めさせる。
それをサポートするプロジェクトだ。
◆世の中は書字障害を訓練で治そうとするが、長年の経験から言わせてもらえば、訓練する間に書くのが嫌いになってしまう。
近年では、そうするとすぐに発達障害と診断して薬を飲ませるが、薬を飲んで治るわけではない。
訓練や薬で本人を変えようとするのではなく、本人の特性を踏まえた上で、テクノロジーを活用すればいい。
しかし、そこに集まる子どもたちと向き合っているうちに、どうしても向いていない子たちのいることに気づいてしまった。
ワープロを使うことを保障しても、それが好きじゃない。
集団に入るから、しんどい。
就職しようと思ったら、しんどい。
学校行かなきゃいけないと思うから、しんどい。
ソーシャルスキルトレーニングだろうが、「合理的配慮」だろうが、しんどい。
そういう子には「学校なんかいかなくていい。向いていないよ」と言ってあげる必要がある。
もともと一人で生きたほうがいいという子どもたち。
そのためにつくったのが、冒頭にあげたROCKETプロジェクトだそうです。
まとめ
中邑教授のプロジェクトに共通しているのは、みんなが好きなことをして生きていける社会をつくっていこうという想いです。
社会に合わせて人を変える教育は、もうやめよう。
親から授かった特性のまま、もっと人が自然に生きていける社会をつくろう。みんな、そこに向かっています。
インターネット、AI、ロボットの普及は子どもたちの学ぶ環境を急速に着実に変えてきました。
AI 時代に求められるのは、場所も時間割も教科書も超えて、自分の興味関心のあることを探求していく学びを自ら選んでいける人たちでしょう。
現代ではインターネットで興味があることをいくらでも調べられますし、YouTubeなどの動画を見て学ぶこともできます。
特性を理解し、こだわりを生かし好きを伸ばしていける環境を整えていく。
これらの理念を抑えればプロジェクトでなくとも、私たちにも可能なのではないかと思います。
このサイトにも独自の創造性を発揮するヒントがたくさんあると思いますので、よかったら発掘して見てみてください。
子供たちだけでなく、私たちも時代に合わせ変化し続けていけるのだと思います。
やがて到来する面白い社会を見たいですね。