社会の成熟度と個人の成熟度は反比例する 自分探しとひきこもり

精神医学博士の斉藤環(さいとう・たまき)さんが言う「社会の成熟度と個人の成熟度は反比例する」つまり、社会が成熟すればするほど、個人は未熟になっていく、というお話を紹介したい思います。

成人年齢30歳説

医療の現場では、ひそかに「成人年齢30歳説」が囁かれているそうで、それが昨今は上昇して、35歳説、40歳説、あるいは成熟不可能説まであるそうです。

いわゆる現代の成熟社会では、青年のモラトリアム期間が延長される傾向があります。物質的にも豊かな社会では、個人が早くから労働に携わる必要がなく「自分が何ものなのか」を問い続ける期間が延び、個人が成熟しにくくなるのです。

「友達親子」も多く世代間ギャップがなくなり、その距離が近くなりました。共依存になりやすく、自立が遅くなる傾向があります。

また、社会システムが充実すると、個人の機能として要求される様々なスキルも、色んなもので補える様になります。「働く理由」や「家族の必要性」が低下し、恋愛をする若者も減少しています。

この希薄化は個人が何かを犠牲にしてまで「関係」に接続する意義を失わせるのです。その結果、共同体意識で支えられていたさまざまな価値観がゆらいでしまいます。

「殺人の禁忌」「就労の義務」「大人と子どもの区別」など、昔は当たり前であるがゆえに疑いの余地もなかった価値観が懐疑にさらされ、根拠の曖味なものから順に廃れていきます。

成熟とは基本的に、他者や状況によって強いらなければ起こりにくいものなのだそうです。

反社会化から非社会化へ

若者による凶悪犯罪が増えている、と言うイメージですが、むしろ日本の青少年は穏健化しています。殺人はピークの1/4程で、傷害事件を起こすような非行も軒並み減少しており、今の問題は若者の「反社会化」よりも「非社会化」の方にあるのではないかと指摘しています。

現代はニート(仕事も求職活動もせず、教育も職業訓練も受けていない若者)が増加傾向にあります。労働政策研究・研修機構の小杉礼子氏は、日本のニートの特徴として次の点を挙げています。

  • 男女比はほぼ同率。
  • 最終学歴は中学卒もしくは高校中退が多い。
  • 親との同居率が高い。
  • 六割以上が現状にあせりを感じている。
  • 休職活動をやめてしまった理由として「なんとなく」(43.4%)が最多。
  • 一度も就職活動をしてこなかった理由としては「人付き合いなど会社生活をうまくやっていける自信がない」(43.1%)が最多。

不況が原因とも考えられがちでありますが、この最後の項目に見られるように、個人の対人関係の問題という側面も無視できないそうです。中には対人恐怖症の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そして、このニートの一部が、いわゆる「ひきこもり」です。就労せず通学していなくても、一緒に遊ぶ仲間がいればひきこもりではありません。ただしこの場合も、二十歳代後半以降、仲間が就職や結婚などで離れていくことによって、ひきこもり化していく可能性が高い、と指摘しています。

ひきこもりの特徴として、次の点を挙げています。

  • 不登校との関連性が高い。
  • 1970年代後半から増加。
  • 男性に比較的多い。
  • どのような家庭のどのような子供にも起こりうる。
  • しばしば著しい長期化(数年~十数年)に至る。
  • 長期化とともに精神症状や家庭内暴力などの問題行動が出現しやすい。
  • ひきこもるきっかけは多様だが、長期化のパターンには共通点が多い。
  • 長期化に至った事例が自力で社会参加を果たすことは著しく困難

日本より先に社会が成熟化した欧米にも、ひきこもりはあるのでしょうか。

斎藤氏によると、欧米では若年無業者の問題は、ひきこもりではなくヤング・ホームレスの増加となって現れているそうです。

斎藤氏は、これは自立に対するイメージの違いによるのではないかと述べました。すなわち、欧米における自立は家から出て行くことであるのに対し、日本の自立は家を継いで親孝行することである。

欧米型自立の失敗がヤング・ホームレスであり、日本型自立の失敗がひきこもりだとも言えます。

「ひきこもり系」と「自分探し系」

若者全体に顕著に見られる傾向として、不安型の「自分探し系」と、回避型の「ひきこもり系」の二極化があります。

自分探し系
  • コミュニケーションが得意で友達の数も非常に多い
  • 対人関係から離れると自己イメージが不安定になりがち
  • リーダーシップを発揮してまとめ役となるタイプ
  • 不適応パターン:境界性人格障害、リストカット、カルト
ひきこもり系
  • 一般にコミュニケーションが苦手であるが淡白
  • 比較的安定した自己イメージ
  • クリエーターや作家向きのタイプ
  • 不適応パターン:ひきこもり、ニート、家庭内暴力
前者は対人的な適応能力が高く、友人が多く活動的ですが、自己が不安定で孤独に耐えられません。後者は非社会的ですが孤独に強く自己が安定しています。

対人恐怖症系

これは付け加えた項目ですが、不安と回避が混在するタイプもいると思います。そこには、自らの劣等性に悩むけれど、その背景には「かくあらねばならない」という自己イメージがあり、強気と弱気の共存があります。

その多くの人は、自宅や全く知らない人の中では平気なのに対して、ある程度関係のある人の前では緊張するのです。

対人恐怖症には、とらわれている自分をそのまま受け入れていくことを重視した森田療法という独特の治療法も近年開発されたそうです。

「精神的健康とは自由さと安定性が高いレベルで一致」していること、つまりバランスの取れた安定性が大切だといいます。

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その他の要点

◆全ての若者全員が好ましい適応レベルには到達することはありえない。天才的に適応がいい人も、ドロップアウトする人も生じる。突出した才能を求めるならば、ドロップアウトも付随するものとして必然的に受け入れなければいけない。

◆社会的引きこもりと不登校との関連性は高い。不登校の長期化は70年代後半から増加している。因みに70年代後半は若者の思春期・青年期のあり方が大きく変化した、ターニングポイントとなった年である。

◆引きこもりは男性に多い。たまたま引きこもってしまった人は延々と引きこもりを続けるというスパイラル的な面がある。

◆今後、20年、30年とたつと、引きこもり高齢化社会が生まれる可能性がある。その際、一度も納税したことのない人への年金の問題が生じてくるだろう。

◆日本に限らず韓国でも引きこもりは増加している。ごく浅い意味での儒教文化圏の問題として捉えることができるのではないか。儒教社会は親孝行社会で、同居型文化であるが、自立が成熟の基準にはならないので、同居状態が続くことから、派生してくる可能性も高いのではないか。

◆引きこもりはコミュニュケーションが極めて苦手で、自己イメージは安定している。インターネットや携帯電話も使わず、コミュニティカブな回路から自分を隔絶する形が大きい。

◆若者の未成熟を考えるとき、引きこもりと自分探しという2つの軸がある。コミュニカティブで流動的すぎると、不安定な人格や衝動性が温存され、リストカット、ネット心中、カルトに走る。彼らは自己イメージが拡散しがちで、プライドへのしがみつきが低い。

◆コミュニケーション格差の問題も大きい。初期条件によって、格差が大きく開いていく方向にしか関係性が進んでいかない。コミュニケーションが苦手と思い込むと、自分を負け組みに分類してしまう傾向がある。

◆不適応はどの時代、社会にもおきる。問題は、その不適応が必要以上に拡散しないよう受け皿なりを用意する必要がある。引きこもりが生じるのは仕方がないが、更に進んで心中未遂といった両親殺害などに至らないようにしなくてはならない。具体的には、引きこもりの概念の啓蒙、居場所の整備などが必要。

◆引きこもりが生じる原因には、就労は義務であると考えている人が多いことがある。就労は義務ではなく、趣味にすぎないと考えることを許容してもいいのではないか。世間的なプレッシャーを削ぎ落とせば、引きこもりもこれほどの問題にならないのではないか。

◆引きこもりには男性が多い。その理由には、学卒者の社会参加へのプレッシャーは、明らかに男性の方が高いためである

斎藤氏による「人間の成長」とは

「自らの意思で変化を続けることをあきらめない人」
「変われば変わるほど変わらない人」

だそうです。何が起こるか分からないこの時代を、生き抜いていく強さなのでしょう。

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