胎児期の影響についてまとめてみました。
現時点で研究されている結果のものです(2019.12.15)
◆胎児期のテストステロン濃度
・母親の胎内で高濃度の男性ホルモン・テストステロンにさらされた赤ん坊は、幼年時代に自閉症的な性質が現れやすい。英ケンブリッジ大学によるこうした研究結果が、12日発行の学術誌「British Journal of Psychology」に発表された。
・染色体XX(女児)を持つ胎児の脳が男性ホルモンにさらされると、脳の配線は男で体は女という赤ん坊が生まれる。幼いころはおてんばと呼ばれ、他の女子に比べると遊び方が乱暴で激しい。思春期になると体毛や顔の毛が濃くなり、手と目を連動する動きや、ボール扱いも上手くなる。
『話を聞かない男、地図が読めない女 P247』
◆胎児期の女性ホルモン
高濃度の女性ホルモンにさらされた胎児は自閉症になりやすい可能性があることが判明した。研究を主導しているバロン=コーエン教授は「今回得られた知見は、出生前の性ホルモンレベルの増加が自閉症の潜在的な原因であるという説を支持するものです。こうしたホルモンの働きと、遺伝的要因とが相互に作用して、胎児の脳の発達に影響しているのだと考えています」と語りました。
◆妊娠中の炎症
母親の炎症と自閉症スペクトラム発症の相関を示す臨床データが積み上がっている。最近の論文では、妊娠13-28週で38.5度以上の発熱を経験した妊婦では、オッズ比が1.3になり、確実に高くなることが報告されている。IL-17a上昇、体性感覚野の抑制性神経細胞の喪失、体性感覚野の異常興奮、行動異常という過程が明らかになった。
◆妊娠中のストレス
統合失調症と同様に、自閉症スペクトラム障害発生率と母体が妊娠中に受けたストレスにも、相関が認められている。
◆夏の妊娠と自閉症リスク
国立成育医療研究センター研究所の研究によると,自閉症の環境要因と考えられたのは、
1妊娠初期の喫煙,2水銀,3有機リン酸系 農薬,4ビタミン等の栄養素,5親の高齢,6妊娠週数,7出産時の状況(帝王切開等),8夏の妊娠,9生殖補助医療に よる妊娠,
一方,関連がないと考えられる環境要因は1妊娠中のアルコール,2 PCB,3鉛,4多環芳香族, 5社会経済的地位,6ワクチン,7低出生体重,であった.これらは再現性のあるものもあればないものもあり,さらなる研究が必要である.
◆腸内細菌の少なさ
腸内細菌が少ない母親から生まれた赤ちゃんに発達障害が現れやすいことを福井大学のチームがマウスの実験から突きとめ、2016年1月、米科学誌「プロスワン」(電子版)に発表した。
◆痩せ型の母親
低出生体重児は成長後に糖尿病や高血圧といった生活習慣病など、様々な病気にかかるリスクが高くなることがわかった。要因として、妊婦の子宮内環境が望ましくない状態になっている、つまり栄養やストレス、環境化学物質などの影響を受けていることが挙げられる。なかでも最大の要因は妊婦の栄養不足。BMI20〜22を保つと良い。
◆妊娠中の貧血
米ハーバード大の研究では、妊娠初期から中期に貧血だった場合、早産や低出生体重児が生まれるリスクがいずれも1・2倍を超えていることがわかった。
◆体外受精
「顕微授精に代表される生殖補助医療によって生まれた子は、そうでない子に比べ、自閉症スペクトラム障害であるリスクが2倍である」という研究結果が発表された。
◆妊娠中の喫煙
妊娠中の喫煙により子宮内胎児発育遅延がおきることは有名であるが、その程度は喫煙本数に関係し、一般に母が喫煙していると出生時体重は約200g 軽くなり、ヘビースモーカーでは約450g 軽くなると言われている。また、流産、早産、前置胎盤、胎盤早期剥離などの異常も増加する(2~3倍)。早産率は喫煙本数と明らかな相関がある。妊娠中の喫煙が生後の児に神経発達障害を引き起こす可能性が示唆されている。
◆妊娠中のアルコール
日本産婦人科医会によると妊娠中のアルコール被爆により、流産、死産、先天異常が生じる。アルコールが催奇形性を有することは明らかであり、先天異常としては以下の症状がある。
- 子宮内胎児発育遅延ならびに成長障害
- 精神遅滞や多動症などの中枢神経障害
- 特異顔貌、小頭症など頭蓋顔面奇形
- 心奇形、関節異常などの種々の奇形
これらの症状を有する典型的なものは「胎児性アルコール症候群」として知られている。また中枢神経障害が主体の不全型は「胎児性アルコール効果」と呼ばれている。欧米では精神遅滞の10-20%が胎児性アルコール症候群・効果によるものと推測されている。
◆母親の肥満
米カリフォルニア大学デービス校とバンダービルト大学の研究チームによると、肥満の母親からは自閉症やその他の発育異常と診断される子どもが生まれる可能性がそうでない母親と比較してかなり高いことが分かった。
◆妊娠糖尿病
妊娠糖尿病の母親から生まれた児では自閉症発症リスクが高まる可能性が、米国の大規模縦断コホート研究から示された。妊娠26週までに母親が妊娠糖尿病を発症していた児の場合、そうでない母親の児に比べ、何らかの程度の自閉症を発症する率が42%高いことが分かった。エストロゲン、プロゲステロンなどの妊娠中に増加するホルモンにより耐糖能が悪化しがちであることによる。一般的には、出産後に耐糖能は正常化する。
妊娠糖尿病では巨大児になりやすいため、難産になりやすい妊娠糖尿病では中枢神経系よりも身体の発育が良いので、出産のときに頭が通っても肩が通らない肩甲難産になりやすいその上、妊娠後期において母体の血糖コントロールが不良の場合、胎児も高血糖に曝されるため、正常な胎児であれば、胎児の膵臓が大量のインスリンを作り続けることになる。インスリンは胎児の肺サーファクタントの合成を抑制するために、大量のインスリンを作り続けた結果、胎児が出生した後で、新生児呼吸窮迫症候群を発症するリスクも上昇する。
※肺サーファクタントが不足すると、肺胞が潰れやすいため呼吸困難に陥ることがある。