ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)の特徴
◆脳の過成長(シナプスの刈り込み【脳の最適化】が充分に行われないことが一因)
→変化に柔軟に適応していくことの苦手さ、記憶力の良さ
◆ボトムアップ型の情報処理(下から積み上げていくように、細部を正確に把握してから全体像へと進む)
◆感覚システム(情報を加工せずのままの状態で受け取る)が強い為、ものに興味を持つ傾向がある。
ASDは、脳のシナプスの刈り込みによる脳の最適化が弱いために、大量の感覚をそのまま処理するボトムアップ処理で思考したり、新しい環境に適応していくのが難しいことがあげられます。
その為変化の少ない繰り返し作業や慣れ親しんだルーチンワークを好みます。
また、脳内ネットワークの長距離間の繋がりが弱い事が分かっています。
特に脳の右前方部と左後方部のつながりが低下していることがわかっています。
感覚システム的で、数学やプログラム、マニアックな専門知識に強く、不規則である人ではなく“もの”に興味があります。
感覚システムが強いと情報を加工せず、そのままの形で素直に受けとるとされています。
前頭葉の優劣ではなく、あくまでもネットワークの構造の特徴の違いが、認知様式の違いを生み出している可能性があると考えられています。
定型発達の人たちが、効率よく社会に適応していくために「不要」とみなして刈り込んでしまうシナプスが、自閉スペクトラム症の人には残っているということは、ユニークな個性にもつながります。
また、ボトムアップ処理の方が細部の正確さに勝ります。
ASDはこのような独自の認知機能や行動がありますが、それを知らない多数派の人から見ると、空気が読めない 人の気持ちがわからないと思われる事があります。
そしてASDの子供は、わがまま 自己中 躾けられていないと思われてしまうこともあります。
しかし、よき理解者に恵まれた場合は、この構造の違いを長所として活かし、能力や才能として伸ばしていくことができます。
そもそも、自閉スペクトラム症はひとつの個性であり、多数派の定型発達者とは異なる特徴をもつ少数民族にすぎません。
一般的の普通を求めるのではなく、見方を変えるだけで本人も周りも過ごしやすくなる筈です。
3つの主な障害
◆社会性の障害
ルールやマナーの理解が出来ない、人との距離感がつかめないなど、人とうまく関わる事が出来ない。
しかしながら、ゆっくりと発達し、変化していく。
知的に高い人たちは、経た経験を元に自分で特性が目立たないようにカバーしていることも多い。
※気付いて努力した結果、代償的に空気を読みすぎ疲れ果てる「過剰同調性」「慢性疲労症候群」や「線維筋痛症」の素因になる。
過剰に気にしても見当はずれな対応をしてしまう事で、より苦悩を感じてしまう事がある。アスペルガー受動型の人に多い傾向。
◆コミュニケーションの障害
共感したり、意思疎通が難しい。
寡黙であったり、興味ある事を一方的に喋り続けたり、感情のない声、無表情など独特の印象である。
冗談やお世辞や皮肉を間に受け、言葉に秘められた微妙な感情が理解できない。
中庸が難しく、合理化を望む。
よく言えば裏表が無いと言えるが、素直な意見を言い過ぎてトラブルを起こすこともある。
ASD同士だけのコミュニティーでは円滑な意思疎通ができると考えられている。
表面的な行動で良し悪しを判断する為、隠された悪意に気付かず利用されたり騙されやすい。
◆想像力の障害
いつもと違うことに柔軟に対応出来ない。
同じ時刻、場所、同じ手順というように、判で押したような生活パターンを好む。
物事の流れや先の予想が困難であるため、パターンを乱されるとパニックになる。
規律や秩序を重んじる環境では安心して生活できるが、自由な環境では居心地が悪く不安になる。
こだわりが強いため、限られた分野に集中し、とことん追求する芸術家や学者に向いている。
想像力が無いのではなく、過剰、あるいは方向性が違うという事にある。定型発達の人と異なる。
目には見えないイメージは苦手だが、具体的な実物、写真、絵、文字などの情報が見える形だと他者と共有しやすくなる。
感覚異常について
聴覚…感覚が過敏で騒音、サイレン、風船の割れる音などが苦痛。うるさい場所で人の話が聞けない。
視覚…視覚に入るもの全てが目に飛び込んで来るので、対象物と背景を見分ける事が困難。そのせいで探し物が見つからない。光が眩しく見える。
臭覚…体臭やタバコ、芳香剤、排気ガスの匂いが耐えがたく感じる。
触覚…ごわごわしたもの、チクチクしたものを着れない。体に触れられるのを嫌がり触られただけでも強くたたかれたように感じるなど、気分が悪くなるほど不快に感じる人もいる。
味覚…色々な食材を使った料理が苦手で、偏食になりがち。
他…怪我しても痛みを感じない。疲れを感じない。暑さ寒さを感じない、睡眠不足やストレスの蓄積にも、気付かない鈍い障害もある。心身症や鬱病のリスクがある。
こうした感覚異常はシナプスの刈り込みが十分機能していない事によると考えられています。脳の最適化がうまく出来ないことが原因と見られています。
運動障害…発達障害の人の少なくない人数が子供の頃から縄跳びやキャッチボールが苦手である。
協調運動能力が弱いため、動きがぎこちなく、複雑な動きを求められるスポーツは至難の技である。
※低年齢期に作業療法士による、感覚統合療法を受ければ改善することも多い。それにより、社会性の障害や学習障害も治ることもある。
アスペルガー症候群の3つのタイプ
積極奇異型
・積極的すぎて他人との距離が近い。
・初めて会った人にも馴れ馴れしかったり、プライベートな事も平気で話す。その場に関係ないことでも一方的に延々と話し続けたりする。
相手の反応は気にせず、自分が話したいことばかり話し、周りを巻き込もうとする。
・空気の読めない人と思われがちである。
受動型
・集団の中では人と関わろうとするが、自ら積極的に動くことはない。
・積極性はないものの、誘われれば素直に従う。
・問題行動は少なく小さい頃は割と育てやすいが、集団に入れば良くも悪くも流されやすく、主体性がない為、悪いことだとわかっていても命令されると従ってしまうこともある。
・流されやすい為、要求を全て受け入れてしまいそれがストレスになってしまう。常に受身であり相手に決定権を委ねる。
・大人になってから気付くことが多い。一見アスペルガーとはわからない。
・自己防衛本能が強く、怒られそうになった時など嘘をつくこともある。
孤立型
・周囲に関心が薄く、コミュニケーションが取りづらい。また本人も好んで周りとコミュニケーションを取ろうとしない。
・1人で遊ぶこと、人と接しない事に安心感があり、集団の中にいても周りに人がいないかのように振る舞う。
・幼い時にこのタイプでも、成長とともに変わることが多い。
アスペルガーのパートナーがかかりやすいカサンドラ症候群
アスペルガーの配偶者を持つ人が、相手と情緒的な相互関係が築けないために悩み、葛藤し、身体的・肉体的症状を生じてしまう現象。
「カサンドラ症候群」になりやすい人の特徴は、自分自身を責めがちな人です。悩みから鬱になってしまうケースもあります。
なぜ、結婚後にコミュニケーション問題が浮き彫りになるのかというと、アスペルガーの処世術として「外モード」「内モード」という二面性がつくられているからです。
二面性ゆえに配偶者の悩みが周囲に信じて貰えない事が多く、より苦悩が増大します。
「外モード」とは、これまでの体験で得た学びを生かして、周囲との軋轢や摩擦が和らぐようにふるまうモードです。
「こうふるまえば怒られずにすむ」「こうふるまえば受け入れてもらえる」という経験が外モードとして働いています。
しかし、本来の自分がやりたいことではなく、無理している状態なので非常にストレスがたまっています。
「内モード」では、全てそれをオフにし本来の自分、アスペルガー症候群を隠さない自分に切り替えるのです。
自分が育ってきた家庭の中では「内モード」で過ごし、学校や会社では「外モード」を使い分けます。
本来なら新しい家族である配偶者との間に新モードを作りあげるのがベストです。
自分で良し悪しの雰囲気を感じ取り、2人の最適な環境を探り探りで構築していく過程こそが夫婦の絆を深めていくのです。
しかし、アスペルガー症候群の人は見えない感情を読むことが苦手であり「教えられないとダメ」「最初にそう言ってもらわないとダメ」という特性もあるので、誰かが言わないと出来ません。
相手との新しいモードを作るのではなく、自分の育ってきた家庭の姿を当てはめ「こういう風にすれば良い」という感じで結婚生活をはじめることになります。
それ以外にモデルが居ないからです。
2人の信頼関係が築かれる前に長年共にしている夫婦の姿をいきなり体現することから配偶者は戸惑います。
本人のこういった特性を配偶者は知らぬまま結婚する事から、さまざまなところでコミュニケーションのすれ違いが生じます。
ASDの対策
ASDは本人や周囲の人が知識をもち、正しく理解することで状況が良い方へと大きく変わります。近年ニュースで話題になった、コーヒー焙煎で起業した岩野響さんもその1人でしょう。
芸術家やミュージシャンにもASDの人が少なくなく、膨大な知識や経験を活かしたオマージュ的作風やアドリブといったボトムアップ型の作品作りをしている方もいます。
高機能自閉症と診断されていると言われている米津玄師さんは、様々な音楽を学び、分析して、その型の中でいかに自由に泳ぐか、最初にリスペクトがあり、その上でどうオマージュするかを考えながら作っているそうです。
その膨大な知識量から紡ぎ出された美しい音楽は、独自の色彩を帯びながら人々の心を魅了しています。
長所を活かすために
- 沢山の実経験や知識を増やしていくこと
- ストレスを見極めながら出来る限りそれを叶える環境を整えていくこと
経験や知識を増やす事は短所でもある騙されやすさの対策にもなります。人を疑う事も学ばなければいけません。
- 多数派が集団の「場」での対立を恐れる行動パターンを持っていることの理解
- 多数派からの誤解を回避するための予防策を取ること
- 多数派と「理解」の意味が違うことを理解すること
例えば、「重要なことは一対一の場で伝える」などは有効です。
ASDの求める「理解」は厳密で、「中途半端では許されない完全な理解」を要求することになってしまいますが、多数派の意味の理解は、ただ「表面上対立していない」というだけの意味であって、それを(ASD的には無意味に見えても)多数派は大事にしているのだということを理解することです。
また。ASDは愛着の対象の相手は、無条件に「自分のことをすべてわかるはず」と前提してしまう傾向があるため、
- 「基本的に誰であれ、自分でない人は、言葉で説明しなければ分からない」という単純な真実を繰り返し思い浮かべて、確認すること
も重要です。つまり、「(自分も相手も)分かるはず」とは決して考えず、全て言葉で説明してお互いに理解する努力を続けると自分に言い聞かせ続けることが必要です。
相手に100%の要求や理解を求めず、0でなく60%を目指していきましょう。白黒思考ではなくグレーを意識しましょう。
- ストレス対策やキャパオーバー対策もしていきましょう。
これからますます多様化の時代になってくるといわれています。その素晴らしい魅力的である個性を輝かせるのもあなた次第なのかもしれません。