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脳番地トレーニング②  左脳に多くみられる海馬回旋遅滞の影響

前回の続きです。今回は海馬旋回遅滞と、その影響についてです。

生育歴にこれといったアクシデントがないにも関わらず、発達障害が見つかるケースのほとんどが原因不明と言われています。原因不明の発達障害の95%は、海馬または扁桃体の発達が遅れています。これを海馬回旋遅滞といいます。

発達障害が見つかる年齢に関わらず、それ以前の脳の形成期から発達が遅れていたと考えられています。

海馬回旋遅滞とは

隣り合う海馬と扁桃体の形成は、胎生10〜11週には始まります。「I」の形から、21週ごろには「Z」の形に折りたたまれ始めます。

生後にも折りたたみが進んでいき、10歳前後で成人と同じ「Z」になります。この形の推移を「海馬回旋」と呼びます。

ところが、発達障害では海馬回旋が途中で止まり、不完全な形をしています。海馬扁桃体周辺の形成が不十分であることを示しています。

しかし、海馬回旋遅滞は脳の損傷ではありません

形成が遅れている場合には、ゆっくりでも少しずつ育っていきます。周辺の枝ぶりを伸ばすことができます。

遅滞があっても、育ち方で目立たなくなったり、突飛な行動や発想が強みになったり、癖はあるけど障害と言うほどでもないといったケースもあり、発達障害にならないこともあります。

海馬と扁桃体は、右脳と左脳に1つずつありますが、海馬回旋遅滞が起こりやすいのは左脳です。

また、女子より男子に約2倍多いです。このような男女比からも遺伝的要因が関与していることがわかります。

海馬記憶学習に関わり、扁桃体情動社会性に関わります。

海馬の役割

  • 脳の様々な場所とネットワークを組む処理ルートの中間地点になっている
  • 学習(知識・思考・技能・運動など)を獲得したり、活用したりする
  • 記憶したり、思い出したりする

海馬は処理ルート途中の関所の役目を果たしており、海馬を通るたびにそのルートが強固になって定着します

海馬には、情報の好き嫌いがあります。脳の覚醒が高まる時ほど海馬を通過しやすく、不必要だと判断されたものは海馬を通る事ができなくなります。

海馬が通す脳番地の情報は学習が進み、得意分野になりやすく、通らなかった情報は、なかなか学習が進まず苦手分野になります。

海馬に問題があった場合

過敏性と無反応の両極端に分かれます。

学習が進みにくく反復が必要なタイプ

細かいことまでどんどん記憶してしまうタイプ

◆記憶しにくいという側面がありつつ、長期記憶の固さがあり、一度覚えたやり方を変更できなかったり、忘れたくても忘れられないトラウマや、フラッシュバックに悩む事があります。

理解系とのネットワークが弱い場合、状況分析が苦手になり、記憶を活用する事が不得意になります。

そのため応用が苦手で、多くのことを知っていても場面に合う知識を引き出したりその場でうまく活かす事ができないのが特徴です。

◆海馬の障害には、睡眠トラブルが併発しやすく、夜中に何度も目覚めてしまう、寝付きが悪い、朝起きれないなどの悩みを抱えることもあります。

◆脳波異常や、てんかんを併発することもあります。

扁桃体の役割

  • 情動や社会性の発達に関わる
  • 主に恐怖や不安に敏感な器官として発達
  • 刺激に触れてもいいかどうかをジャッジする「刺激の番人」
  • 情動から身体症状を引き起こす

扁桃体の働きは無意識で行われます。

喜び・楽しさ・ワクワク感などのポジティブ感情や、不安、悲しみ・怒り・嫌悪感などのネガティブ感情愛着驚きにも関わっています。

他の脳番地とネットワークで繋がっており、情動に関わる情報が扁桃体に送られてきます。

海馬とも密接な連結があり、情動の変化を伴う体験は記憶に残りやすくなります。逆に過去の記憶を思い出すと、その記憶に付随する情動も呼び起こされます

身体症状を引き起こすのも扁桃体の働きで、例えば、恐怖の反応として心臓がドキドキしたり、鳥肌がたったり、呼吸が速くなったります。これが強くなりすぎるとパニックに繋がります。

扁桃体に問題があった場合

2パターンあります。

他人の感情を理解するよりも、自分の感情が優先されるタイプ

共感性が乏しく、自分本位の思考や行動になりやすく、社会的なトラブルになりやすい

自分の感情の理解よりも、他人の感情への理解が促進されるタイプ

他人の目が気になって仕方がないため、自分の感情を表に出すことが少なくなります。社会的トラブルは少ないですが、外界や他者に過敏であるためストレスが溜まりやすい傾向があります。

情動の問題

感情の表出は過敏性と無反応があり、情報によって強過ぎたり弱過ぎたりします。また怒りの抑制が難しいなどの問題が起こりやすくなります。

その結果、刺激に強いものや人を避ける共感性が乏しくなるなど、社会性の発達にも問題が起こりやすくなります。

各ネットワークの繋がりへの影響

ほとんどの脳番地は海馬と扁桃体とネットワークを組んで働いています。

そのため両方に発達遅延があると、ネットワーク自体がうまくいかず、関連する特定の脳番地の発達が遅れやすくなります。

発達するために、より多くの時間と経験が必要になります。

しかし、全ての脳番地が遅れているわけではありません。よく育っている場所は、得意な能力を作り出します。

記憶系番地は、海馬回旋遅滞が起こる場所で、感情系番地は扁桃体の影響があり、95%は発達の遅れが見られます。

聴覚系番地は、海馬と近く強く影響を受けやすいです。理解系・運動系・感覚系も影響を受けやすい脳番地です。

思考系は最も影響を受けにくい希望の番地です。

影響を受ける場所や度合いは、個人によってそれぞれ大きく違いがあります。

海馬回旋遅滞が各番地に与える影響

運動系・感覚系脳番地

苦手になりやすい番地です。運動系では、不器用な子供が多く見られます。その場合、力の加減が上手にできません。

また、運動や外出が嫌いな傾向があります。

感覚系では、感覚過敏や口腔過敏が顕著な例です。皮膚感覚に過敏性や、強いこだわりがある場合や、人との接触を好まない場合には、感情系に問題があることが多いです。

視覚系脳番地

視覚記憶がよくても理解系との連結が不十分だと、状況を読み取るのが苦手になりやすい傾向があります。

文字やパズルなど明示されたものを見て処理するのは得意でも、場の雰囲気や文脈などの明示されていない情報を見て読み取ることは苦手な傾向があります。

視覚系が苦手だと、模倣が苦手、字が汚い、不慣れな場所が苦手な傾向があります。

聴覚系脳番地

影響を受けやすい番地です。聴覚系が苦手なことによって、危険な場面に遭遇したりする不注意な性格になりやすい傾向があります。

まだ読み書きができていない幼児期では、言語発達が遅れやすくなります。

声の調節が苦手になり、声が大きすぎたり、小さすぎたりします。

聴覚過敏になったりします。

記憶系脳番地

海馬回旋遅滞が起こる場所であり、感情系と並んで発達障害の95%に発達に遅れが出やすい番地です。

興味のあること、理解していること、情動を伴う体験、繰り返した体験などが優先的に記憶されます。

記憶系の役割には、人の名前や言葉を覚える言語性記憶と、人の顔や場面などの非言語性記憶、地理記憶があります。

過去・現在の情報・未来の展望にも大いに関係します。そのため、先の見通しや、時間感覚にも関係しています。

それらが、覚えられなかったり、逆に覚えすぎてしまったり、時間にルーズだったり、時間にこだわったり両極端になります。

その他は、海馬の項目にある通りです。

理解系脳番地

影響を受けやすい番地です。

右脳・・・図形認知・視覚で取り入れた情報の理解・空間や体感の把握・俯瞰したものの見方や全体像の把握

左脳・・・見聞きした言葉の理解・文字の習得・言葉の概念や定義

知的障害や言語発達遅延がある場合は、左脳より右脳の方が育っています。言語の理解が育たず、右脳を追い越さないままになっているケースが多いので、体験的な理解がメインになります。

軽度発達障害では、左脳の理解系がより育っています。右脳が育っていないと、勉強ができても状況把握や空間認知が苦手になります。

伝達系脳番地

影響が目立つ場合と、少ない場合に分かれます。目立つ場合は、人の真似がしにくい特徴があります。

重度・・・発語がでにくい

軽度・・・短期記憶やワーキングメモリが不得手になります。

自閉性がある場合は、発語が無かったり乏しかったりします。

かん黙の場合でも、脳内言語を持っているかどうか、短期記憶が可能かどうかなどによって、伝達系の発達が左右されます。

感情系番地

記憶系番地と並んで高頻度に発達が遅れます

共感すること、相手の気持ちを察すること、自分の気持ちに気付くこと、場の空気を読むことなどが苦手です。

感情のインプットだけでなく、アウトプットも弱く、泣かなかったり、顔の表情が乏しかったり、ガッツポーズなどの表現が控えめ、何に対しても興味が沸きにくいといった傾向があります。

その他は、扁桃体の項目にある通りです。

思考系番地

最も影響を受けにくい番地です。よく育っている場合がほとんどです。

自分のやりたい事や嫌な事を自己主張するのも、興味があることに没頭出来るのも思考系の働きです。

しかし、知覚や理解系が未熟で、思考系が早熟な場合は過度に自己主張が強くなります。

理解系と思考系の乖離(育ち方が離れすぎている)が大きくなると、反抗性のある二次障害に

なりやすいと考えられています。

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