筋肉構造の特徴を決める遺伝子 ACTN3
ACTN3は速筋繊維のみに発現する遺伝子で、スポーツ競技力との関連性が最も顕著な遺伝子だと言われています。両親からそれぞれ1つずつ遺伝されます。運動能力に関する遺伝子はその他にも100以上あるとされています。
RR型・・・速筋繊維の形成や促進、速い筋収縮を要する運動に有利になる様に糖代謝を変化させたりする。短距離などのスプリント系やパワー系競技に向いている
RX型・・・筋力も持久力もどちらの競技にも向いている中間筋。バランスタイプ
XX型・・・ACTN3タンパク質が作られない。ACTN2が代償的に発現している。遅筋繊維(筋収縮速度は遅く、発揮パワーも小さいが酸素を利用し持続的な収縮が可能だと考えられている)
シドニー大学などは2000年台前半、オーストラリアで50人のオリンピック選手を含む300人以上のトップアスリートを対象に「ACTN3」を調査。スピードスケートや短距離、水泳種目の選手に「XX型」の選手が1人もいないことを解明した。高い持久力が求められる競技の順に「XX型」の割合が高くなることが分かった。
ACTN3はACTN2に比べて骨格筋の構造をしっかり保ち、高い筋出力に有利に働くと考えられています。
人種、民族別のACTN3の遺伝子型
RR型 | RX型 | XX型 | |
日本の男性 | 22.3% | 53.3% | 24.5% |
日本の女性 | 19.6% | 53.3% | 27.1% |
インドネシア (ジャワ島) | 17% | 58% | 25% |
ケニア | 84% | 15% | 1% |
米国(黒人) | 66% | 30% | 4% |
スペイン | 28% | 54% | 18% |
オーストラリア (白人) | 30% | 52% | 18% |
オーストラリア (アボリジニ) | 52% | 38% | 10% |
ACTN3遺伝子は、11番染色体に存在し、577塩基体がR(アルギニン)と、終止コドンであるXの組み合わせです。
何らかの原因で遺伝子配列の一部が変化すると、目的とするタンパク質が作られなくなったり、十分機能しなくなります。これを「遺伝子の変異」といいます。同じ変異が高頻度で観察される場合(通常1%以上)、これを「遺伝子の多型」と呼びます。
本来アルギニンRの暗号となるべきところを、暗号の読み取り終了指令である、終止コドンのXに置き換わってしまう変異が約30%という高頻度で日本人に発生するのは、非常に興味深い事です。
これは、アルコールに弱くなる「ALDH2」の非活性型が日本人に多いことにも共通しています。白人や黒人には非活性型は見られないのです。
速筋と遅筋の違い
速筋繊維の割合の高い人・・・基礎代謝が低く肥満し易い、 熱産生が低く、ミトコンドリアが少なく毛細血管密度が小さい。 無酸素状態での筋収縮能が高く、短距離走、相撲、柔道等無酸素運動、 瞬発型運動に適しています。収縮速度が速く、解糖系活性が高く、グリコ-ゲン含量に差はありません。
遅筋繊維の割合の高い人・・・基礎代謝が高く肥満しにくく、食後の熱産生が高く、細胞内のミトコンドリアが多く毛細血管も発達していて酸素を取り込む機能に優れています。長距離走等有酸素運動、持久型運動に適しています。 収縮速度は遅く、酸化酵素活性が高く、筋に含まれるエネルギー源の内で中性脂肪を多く含んでいます。
加齢による影響
遅筋線維の加齢による萎縮は速筋線維に比べ緩やかです。
筋の使用頻度が低下すると遅筋より速筋のほうが不要になるからです。
立位姿勢を支える下腿のヒラメ筋は遅筋線維の割合が高いので加齢の影響が少なく持久能力は保たれます。
速筋繊維の割合の多い場合は高血圧、体脂肪率、肥満やインスリン抵抗性と相関関係が高く 、心血管系の主要なリスクファクタ-になります。
中高年以降の運動としては有酸素運動の方が適応しています。
人種別 インスリン分泌量
インスリンの生理作用は糖代謝、脂質代謝、蛋白代謝です。筋肉組織での糖の取り込み促進や、筋肉組織での蛋白合成促進などを行っています。
日本栄養・食料学会誌によるとインスリン分泌量は
黒人>白人>東アジア人の順に多く、日本人のインスリン分泌は白人の半分程度です。
インスリン様成長因子(IGF−1 IGF−2)
IGF−1は主に肝臓で合成・分泌されていて、成長ホルモン・インスリンなどのホルモンによって促進されます。
IGF−2は脳・腎臓・膵臓・筋肉より分泌されます。
主な作用
・筋肉の中にIGF-1が入ると筋肉は過度に増殖する。
・血清IGF−1濃度が高いと前立腺癌のリスクが高くなる。前立腺癌はアンドロゲン(男性ホルモン)依存性癌と言われており、IGF-1とアンドロゲンが共同して促進しているとの報告がある。黒人>白人>アジア人の順に頻度が高い。米国では男性の20%が生涯に診断される。
・子宮筋腫の発生頻度には人種差があり、黒人>白人>アジア人の順に多い。エストロゲン(女性ホルモン)が増大を促すとされている。米国内分泌学会の発表によると、テストステロン(男性ホルモン)とエストロゲンのレベルが共に高い女性では、子宮筋腫を発症するリスクが両ホルモンレベルの低い女性よりも高いことを示す研究結果を紹介した。米国では4人に3人が50歳までに発症している。
・IGF-2は骨格筋や骨などの組織に作用し、成長、発達を促進する。IGF−1よりも特異的な作用をし、大人ではインスリンの600倍の濃度で見られる。脳の海馬でのIGF−2は、学習や記憶(長期記憶やエピソード記憶)の形成や保持にも関与している。
考察
◆RR型や、インスリン分泌量が筋肉の付き方に深く相関しているのではないかと考えられます。
◆前回の記事で書いた、闘士型・中胚葉型は性ホルモンの相互作用があり、血中テストステロンレベルが一番高いのではないかという考えがさらに高まりました。
◆同じ体型でも、人種差や個人差があると思われます。生まれ持った個人の遺伝子やホルモン分泌量が関連していると考察されます。
◆日本人の中でもインスリン分泌量には個人差があります。
◆XXの遺伝子変異が日本人に発生するのと、痩せ型の人が多いことと、職人気質な国民性は関連性があるように思います。
◆海馬にIGF-2が作用することと、長期記憶やエピソード記憶に特徴のあるHSPは関連性があるのではないでしょうか。海馬にインスリン作用の女性ホルモンが働きかけていると考えられます。