非行にいたる危険因子はどのようなものがあるのでしょうか。知ることによって、リスクが減らせるかもしれません。
非行の危険因子
遺伝的にある素質を持っていたとしても、その素質が発現するかどうかは環境次第です。
非行の危険因子は、家庭要因が一番重大な因子になり、次に学校や思春期の仲間などに影響を受けます。そのため、環境面を整えることが大事だということになります。
生まれ持った因子 0〜3歳
- 犯罪者である父母
- 神経生理学的低覚醒
- 刺激を求める・注意障害・衝動性・多動性
知能 2歳〜7歳
- 言語IQが低い
- 言語的スキルの乏しさ
- 具体的表現を好み自己中心的思考スタイル
- 対人認知スキルの乏しさ
家庭要因 0〜7歳
- 情緒的無視
- 愛着の欠如
- 監督としつけ不足
- 攻撃的行動の学習
学校要因 5歳〜思春期
- 学校へのコミットメント不足
- 成績不良
- 怠学
- 退学
反社会的仲間 思春期
- 反社会的行動に対する社会的支持
- 反社会的態度の学習
- 言い訳と合理化のスキルの学習
劣悪な家庭環境が及ぼす 脳への影響
影響が強く出る0〜7歳は、後頭葉・側頭葉・頭頂葉・海馬などの発達が特に盛んな時期です。脳は後ろから前に発達します。
- 視覚を担う「後頭葉」
- 聴覚を担う「側頭葉」
- 触感を司る感覚野と、体の動きを司る運動野を持つ「頭頂葉」
- 記憶に関わる「海馬」
親の暴力やDVを見聞きしたり触れたりした子供が受ける脳のダメージ
過剰なストレスホルモンにより
- 視覚野の容積が減少
- 聴覚野が変形
- 大脳辺縁系 特に海馬が変化(記憶力の低下)
- 前頭前野が萎縮
また、神経回路の変化もおこります。
- 身体感覚の想起にかかわる「楔前部(けつぜんぶ)」が密になる
- 痛み・不快・恐怖などの体験、食べ物や薬物への衝動に関係する「島皮質」が密になる
- 意思決定や共感などの認知機能にかかわる「前帯状皮質」はスカスカになる・
HSPは脳の島皮質が活発ですので、共通する部分があります。HSP/HSSの両極性をもつ人々の傾向1つとして「貧しく、厳しい子供時代」を送ってきたサバイバータイプがあり、この神経回路の変化が両極性をもたらすのではないでしょうか。
幼児期に虐待ストレスを受け続けると、脳の中にある感情の中枢である扁桃体(へんとうたい)が異常に興奮し、副腎皮質にストレスホルモンを出すよう指令を出します。そして、ストレスホルモンが過剰に放出され、脳にダメージを与えるのです
アメリカのハーバード大学との共同研究でわかってきたことは、感情をつかさどる前頭葉が小さくなって、自分のコントロールができなくなり、凶暴になったり、集中力が低下したりします。暴言虐待により聴覚野が変形し、聴こえや会話、コミュニケーションがうまくできなくなったりします。両親間のDV・家庭内暴力を目撃すると視覚野が小さくなり、他人の表情が分かりにくくなり、対人関係がうまくいかなくなったりします。
脳の形が変わるのは、「外部からのストレスに耐えられるように情報量を減らす」ための脳の防衛反応だと考えられています。
後頭葉と側頭葉は、8〜9割遺伝の影響を受けるとも言われています。視力や聴力は親に似る傾向があるということですから、どの程度虐待から変形が発生したのか、その親からの遺伝の影響なのかはわかりません。
前頭前野が影響を受けるのは5〜6割ですので、後頭葉に比べ環境の影響を大きく受ける部分となります。
奈良県立医科大学精神医学講座(教授:岸本 年史)の研究グループは、幼少期のある一 定の時期(マウスの離乳後 2 週間)に孤立して育てられると、最も高次の脳機能を司る前頭葉皮質の深層において、あるタイプの神経細胞の機能(電気的活動)が低下することを、マウスを使った実験で突き止めました。(中略)
子供の発達期に孤立して過ごすと脳の発達が阻害され、精神疾患を発症する例も報告されています。例えば、1980 年代のルーマニアのチャウシェスク政権下で行われた多産政策の弊害として生み出された多数の孤児が、その後、十分な人的なケアがなされない劣悪な環境で育てられた例があります。
それらの孤児には、認知機能障害、不注意多動症状、自閉症様症状、など様々な精神症状が見られ、脳画像研究において前頭葉中心に異常がみられました。また重要なことに、ある一定期間このような貧しい環境下での療育がなされると、その後先進国の豊かな環境下の里子になっても、これらの症状や異常は改善しなかったということがあります。
近年の脳画像診断法の発達により、児童虐待は発達過程にある脳自体の機能や精神構造に永続的なダメージを与えるということが分かってきたのだそうです。前頭前野、大脳辺縁系、特に記憶に関連する海馬に変化が見られることは、動物実験によっても明らかになっています
社会で普通に暮らしている人たちを対象にした研究では、PTSDや、うつ病と診断されているわけでもなく、学校や仕事をするなど社会に適応している人たちからも、脳の変化が見られました。トラウマの痕跡が脳に刻まれており、それが子ども時代の虐待によるものであることが想像できます。
永続的とも言われていますが、本人の意識次第ではこのトラウマからの回復は可能だと言われています。
攻撃的行動の学習
遺伝的特性が発現するのは環境次第です。攻撃的行動を学習する要因とはどういったものがあるのでしょうか。
戦士の遺伝子
セロトニンやドーパミンを酸化させる作用を持つ酵素のモノアミン酸化酵素A(MAOA)、別名「戦士の遺伝子」と呼ばれる遺伝子の欠損や多型は、攻撃行動に結びつきやすいと言われています。欠損はMAOAが機能していない状態です。
しかし、酵素を作る機能が弱いMAOAを持っていたとしても、虐待を受けていなければ目立った影響は見られないとの研究もあります。
虐待や、暴力を伴う厳しいしつけが、攻撃的行動を学習させてしまうことがわかります。
レイティングシステムやCERO
レイディングシステムとは、いわゆる映画のR指定(年齢制限)のことです。このような制限が設けられるということは、視覚情報だけでも子供の発達に一定の影響を与えるということです。
PG-12・・・性・暴力・残酷・麻薬などの描写や、未成年役の飲酒・たばこ・自動車運転、ホラー映画など、小学生が真似をする可能性のある映画がこの区分の対象になる
R15+・・・PG12より刺激が強いものに加え、いじめ描写や暴力も審査の対象になる。
R18+・・R15+に加え、著しく性的感情を刺激する行動描写や、著しく反社会的な行動や行為、麻薬・覚醒剤の使用を賛美するなど極めて刺激の強い表現が審査の対象になる。
CERO年齢区分マークとは、ゲームのプレイ対象の年齢を区分するマークです。
CERO A…全年齢プレイ可能
CERO B…12歳以上がプレイ対象
CERO C…15歳以上がプレイ対象
CERO D…17歳以上がプレイ対象
CERO Z…18歳以上のみプレイ可能
2012年Browne教授がイギリス心理学会の年次会議にて「暴力シーンが子どもを攻撃的にする」という研究結果が発表がされました。
過去18年間に公開された暴力シーンを含む映画、テレビ番組、テレビゲームを題材に、子ども達がどのような影響を受けるかを調査しました。
この調査によると、
- 低年齢の子どもたちほど、影響を受けやすい
- 見たすぐ後の興奮状態、思考、感情に変化が起こりやすい
- 攻撃的な行動やおびえた行動を示しがちになる
というデータが出たそうです。
愛着の欠如による影響
愛着の不形成は対人関係において様々な影響を及ぼします。
精神医学・社会学・生物学の理論から見る犯罪行為の要因
精神医学
- 過酷なストレス
- 母親の愛情不足・拒絶
- 幼少期の心理的トラウマ
- 精神障害
- 無意識の動機付け
- 防衛的な人格形成
社会学
- 学習による行為
- 社会的葛藤
- マスメディアの影響
- 外的ストレスへの対処不能
- 現代生活の心理的圧迫
- 戦争
- 暴力
- 偏見・差別
- テクノロジーや社会の加速度的変化
- 経済状態・雇用状態
生物学
- 精神遅滞
- 脳の生理的機能不全
- 低い知能指数
- ホルモンの不均等
- 遺伝子欠陥
- 染色体の異常
- 生物化学的障害
- 栄養不良
- 脳疾患
- 体質的不備
まとめ
攻撃的行動は環境要因が関わってきますが、友達とのトラブルなどでは子どもにとって学びの機会にもなります。柔軟な対応や見守ることも時には必要です。
特に、最近の子ども達は、同年代のお友だちと思い切りケンカをするという経験が、なかなか出来ません。
少子化、核家族化で常に親の監視下に置かれ、トラブルの芽は未然に摘まれてしまいます。
母子の世界から一歩外へ出て、そこで出会ったお友達と関係を築くことが、自分の環境との比較による価値観の広がりや問題解決能力を高める等、子ども達の成長に繋がるのです。
喧嘩という本音のぶつかり合いの体験を通して、初めて分かることがあります。
- 自分との違いに気づく
- 全部は思い通りに行かないことを学ぶ
- 問題解決能力や交渉術が身につく
子どもの学習能力を良い方に活かしていきたいですね。